走査電子顕微鏡(走査電顕)は細胞組織の立体構造解析に有用であるが、試料作製には固定、導電染色、脱水、乾燥、金属コーティングという煩雑で長時間の操作を必要とし、しかもそれによるアーティファクトも避けられない。そこで本研究では、短時間で試料作製ができて、さらに高分解能観察ができるような走査電顕観察法を開発することを目的としている。具体的には、磁場をかけた冷凍庫を用いて標本を凍結することで、氷晶形成を極端に抑えた凍結標本を作製し、低真空走査電顕で簡便に観察できるようにしようというものである。この磁場をかけた冷凍庫は、冷凍食品の氷晶障害を最小限にとどめる目的で食品業界で使われている。そこで、本年度は、この冷凍庫をもちいて、水や標本(生物試料)を冷却していく際に、どのような冷却曲線を描き標本が何度で凍結するかを調べた。その結果、この冷凍庫では、水は-9〜-10℃まで過冷却状態で保たれた後に凍結することが分かった。冷凍庫には静磁場とともに動磁場もかかるようにできているが、静磁場のみの状態でも、静磁場と動磁場がともにかかった状態でも、冷却曲線はほとんど変わらなかった。以上のことから、少なくとも磁場のかかった冷却により、氷晶が成長しやすい0〜-10℃の領域を過冷却状態にした後に標本を凍結させることができることがわかった。この条件で、ジャガイモのようにもともと水の少ない植物組織はかなり良好に凍結させることができそうだということがわかったが、動物組織は水分も多く細胞壁もない柔らかい構造でできているため、この状態で凍らせたものがどれぐらいのダメージがあるか現在検討中である。凍結後、そのまま凍らせた状態で低真空走査電顕で観察を試みようとしているが、冷凍庫から走査電顕へ凍結したまま輸送するところで工夫が必要で、まだ詳しい解析が可能になっていない。この点は、次年度において明らかにしていきたい。
|