雄性生殖幹細胞である精粗細胞の単離・精製並びにその培養系の確立は、唯に精子形成過程の分子的メカニズムの解析のみならず、「生命の若返り」現象の本質的理解に必要と思われる体細胞分裂から減数分裂のへの切り替え機構の解明に必須と考えられる。本研究では、最近の骨髄幹細胞の培養技術の発展成果を利用しマウス雄性生殖幹細胞の培養系の確立を試みることを目的とした。本年度に於いては、特に正常成熟マウス精巣を研究対象とした。細胞の分散方法を再度検討した結果、生殖細胞の分離には0.5mg/mlコラゲナーゼ/0.1%グルコース/PBS処理後、0.5mg/mlトリプシン/10μg/ml DNase I/0.1%gグルコース/PBS混液での消化が最良であり、一方セルトリ細胞の単離には0.5mg/mlコラゲナーゼ/10%ウシ胎仔血清/0.1%グルコース/PBSによる振とう分散が良好な結果を与えた。良好なセルトリ細胞をfeeder layerとすると、その上に生殖細胞は付着し、増殖を繰り返すことにより生殖細胞塊を形成した。培地に関しては、セルトリ細胞上で形成される生殖細胞塊の大きさを指標に検討したところ、DMEM/F12やDMEM或いはMEMに10%ウシ胎仔血清を加えた場合に比べ、Mesencult培地/20% mesenchymal stem cell stimulatory supplementsを加えたもので最良の結果を得た。経時的な位相差顕微鏡による生体観察を行うと、この状態で、少なくとも7週間に渡って生殖細胞塊の維持が可能であった。現在、これらの結果を基に、バイオマトリックス等で表面処理した培養皿の効果や更なる培地条件の至適化を検討すると共に、維持された細胞塊に含まれる細胞の増殖動態の検討と細胞種の同定を行いつつある。
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