内耳の外有毛細胞は、脱分極に伴い、その細胞長を変える。1kHzを超える速い膜電位の変化にも細胞の伸縮が追随するため、その分子機構は長く関心の的であった。近年、差異的遺伝子クローニングとin vitro発現系における実験の結果、外有毛細胞に特異的に発現する膜蛋白質プレスチンが、外有毛細胞の伸縮を起こす分子として同定された。膜電位の変化によりプレスチン自体の構造変化がおこって分子のカサが変わり、それが積もりつもって、プレスチンを発現する外有毛細胞の細胞長の変化につながるのだと考えられているが、プレスチンの構造が解かれていないために、未だ推定の域を過ぎない。状況依存的な構造変化に関する情報を得るためには、結晶を作らないで行う単粒子構造解析法が有用である。そこで、今年度、プレスチンの構造とその状況依存的変化を知るというゴールに向け、単一粒子構造解析によりアプローチすることを目的として、プレスチン蛋白の精製を行った。 まず、プレスチンのN-もしくはC-末端にFLAG tagもしくは、緑色蛍光蛋白EGFPを付加したコンストラクトを作成した。それをHEK293細胞に発現させ、免疫蛍光染色により正しく細胞膜に発現していることを確認した。その後、そのコンストラクトを、pFastBacベクターに移した後、大腸菌DH10B Bacにtransformして組み換えバキュロウイルスDNAを得た。これを昆虫細胞Sf9に遺伝子導入し、培養液中に組み換えバキュロウイルスを得た。現在、大量蛋白精製に向け、Sf9細胞への感染を繰り返すことにより、そのウイルスタイターを上昇させている。
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