研究概要 |
浸透圧感受性を示すTRPV4の生体内における中枢浸透圧受容体としての機能を明らかにするため、TRPV4アゴニストの飲水行動への影響ならびにその活性化機構について検討した。実験には9週齢のウイスター系雄性ラットを用いた。側脳室内に挿入固定したガイドカニューレを介してTRPV4アゴニストである4α-phorbol 12,13-didecanoate(4α-PDD)を側脳室内へ投与し、飲水量を1)無処置明期と2)無処置暗期、16時間の3)絶食あるいは4)絶水後、5)高張食塩水の経口負荷の各条件下で測定した。4α-PDDは1-3)の条件下で飲水量を減少したが、4,5)の条件下では影響なかった。1)あるいは2)の実験条件下では摂食量、sucrose水摂取量には影響なく味覚変化はないと思われる。体温も変化なかったが、運動量は僅かに減少した。血漿浸透圧は4,5)では有意に上昇していたが1-3)では変化は認められなかった。4α-PDDの飲水抑制作用は、前処置したTRPV4拮抗薬、tyrosine kinase inhibitor、protein kinase C inhibitorによって減弱した。さらに4α-PDDはangiotensin IIの飲水作用を抑制した。 以上の結果より、4α-PDDは、ある条件下で飲水量を制御していることが示された。この作用は、TRPV4拮抗薬で阻害されること、飲水量に関与すると考えられている体温や味覚には変化がないこと、運動量減少は小さく摂食量に影響しないことから、4α-PDDはTRPV4を介して飲水行動を制御することにより生理条件下での体液浸透圧ホメオスタシスに寄与していることが示唆された。また、この機能の活性化にはangiotensin II系、protein kinase Cとtyrosine kinaseの活性化が関与しているものと思われる。
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