細胞表面受容体の過剰な活性発現は種々の病態の原因になっていることが多く、従来、薬物治療の標的として最も注目されてきたものであるが、その過剰な情報伝達系を制御する技術は未だ確立されていない。本萌芽研究の目的は、細胞が本来保持している受容体局在性の動的調節機構を利用し、細胞表面への受容体発現量を人為的に調節する分子治療技術の基礎を開発することである。すなわち我々は、リガンド結合に伴って受容体をエンドサイトーシス(内在化)に導く特定のトリガータンパク質を利用し、受容体を強制的に内在化させ、分解系に導くことが可能かどうかを確認した。 まず、モデル受容体としてチロシンキナーゼ活性を持つErbB2受容体と、代表的なGタンパク質共役型受容体である1型アンジオテンシンII受容体を選び、各々の受容体内在化のトリガータンパク質と考えられるcblと、βアレスチンとの融合タンパク質の発現系を作成した。現在までに、カルボキシ末端にcblを融合させたErbB2受容体が、細胞表面発現が減少し、形態学的にエンドソームに一致する細胞内集積を見せることや、さらに一部の細胞で、いわゆるaggresomeと呼ばれる凝集タンパク質様の細胞内局在を示すことが明らかになっており、本萌芽研究の理論的正しさを確認している。 今後、これらの受容体内在化トリガータンパク質を、細胞内在性の受容体にターゲティングさせるため、各々の受容体のカルボキシ末端を認識する一本鎖抗体の作成を進める予定である。
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