ショウジョウバエ(Drosophila/Melanogaster)は、ヒトの遺伝病の原因遺伝子の77%において相同性の高い遺伝子を保有するとともに、遺伝学、分子生物学、細胞生物学、行動学などさまざまな分野からのアプローチが可能であり、ポリグルタミン病、パーキンソン病、アルツハイマー病等において、ショウジョウバエモデル動物がきわめて重要な知見を与えた(Annu.Rev.Neurosci.2003.26:627-56)。本研究では先天型およびDuchenne型筋ジストロフィーの発症に重要な役割を担うジストログリカン分子に注目し、ジストログリカンの発現量を低下させたショウジョウバエを作製し、行動および組織学的知見を得た。ジストログリカンdsRNAをGAL4/UASシステムを用い、全身に発現させたところ、ジストログリカン分子は消失し顕著な運動機能障害が生じた。しかし、筋肉特異的に発現させた場合には、運動機能障害は生じなかったことより、ショウジョウバエにおけるジストログリカン分子の消失による運動機能障害は筋肉からジストログリカン分子が消失することとは直接的な関係はないことが示唆された。ジストログリカンは上皮細胞、神経系のグリア細胞、神経内分泌細胞に多く発現していることから、ショウジョウバエにおいてはこれらの細胞に発現するジストログリカンの消失が運動機能障害と関係していることが考えられた。また、ショウジョウバエジストログリカンは体温調節行動において重要な働きをすることよりも、特に神経系、内分泌系でのジストログリカンの機能に着目している。
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