本研究の長期目的は、動脈硬化症進展における肺炎クラミジア感染リンパ球の役割を解明することである。平成17年度は本研究課題の最終年度に当たるが、昨年度に引き続き肺炎クラミジアのリンパ球内での増殖制御機構の解明を試みると同時に、感染リンパ球の機能修飾を明らかにする研究を実施した。感染リンパ球の機能修飾を検討する目的で、ヒト抹消血リンパ球に肺炎クラミジアを持続感染させた状態でphorbol myristate acetate/ionomycin(P/I)による非特異的リンパ球の活性化を試みた。リンパ球活性化マーカーであるCD69表層抗原の発現では感染群ならびに非感染群で有意な差は認められなかった。一方、肺炎クラミジア感染による感染細胞のCD3表層抗原発現を検討した結果、有意にその発現が抑制さることが判明した。このようなCD3発現抑制はC.trachomatis感染では認められなかった。さらに、死菌でも抑制が認められなかったところより、肺炎クラミジア感染によるT細胞活性化回路の抑制制御が示唆された。このCD3抑制制御にはPGE2経路を介した機構が働いている事が経路特異的な抑制剤を用いた実験により明らかとなった。これらの成績より、肺炎クラミジアのリンパ球への感染は、主として持続感染の様相を呈し、非特異的な強いリンパ球の活性化には感染の影響が認められなかったが、T細胞活性化に関与する主要組織適合抗原の発現に抑制的に関与するところより、細胞性免疫の発現に結果として抑制的に働く事が明らかとなった。本菌の感染進展には細胞性免疫が主たる役割を演じていることや、動脈硬化症の進展にリンパ球が主要な役割を演じていることが近年の研究より明らかになっていることを合わせ考えると、本研究課題で明らかとなった事項は極めて重要な知見と考えられる。
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