本年度は昨年度に樹立した遺伝子型1bのHCV-O株由来の全長HCV RNA複製細胞(O細胞)をインターフェロンで処理することによりHCV RNAを排除した治癒細胞(Oc細胞)を樹立した。Oc細胞はHCV RNAを含まず、O細胞と細胞のバックグラウンドが同じため、HCV RNA複製の有無による宿主細胞の線維化関連因子への影響を検討できる良い材料である。さらに、線維化に関連している宿主遺伝子としてCTGF (Connective Tissue Growth Factor)に着目し、CTGFのプロモーター領域をクローニングした。CTGFのプロモーター領域を、ルシフェラーゼ遺伝子の上流に組み込んだプラスミドを作成し、レポーターアッセイ系を構築した。CTGFはTGF-βにより産生され、肝線維化の原因となるcollagenを産生する。また、O細胞およびOc細胞でのTGF-βの産生についてreal time PCRでの定量を、現在試みている。また、肝線維化はアルコール、鉄などにより促進されるためこれらによる刺激を加えた時に産生されるTGF-βの定量も行っている。 今後の計画として、ヒト肝癌細胞株HuH-7由来のO細胞およびOc細胞をヒトstellate細胞と共培養することで、1)構築したCTGFプロモーターのアッセイ系を用いたstellate細胞におけるCTGF発現の検討、2)線維化の最終産物であるcollagenのstellate細胞での発現の検討を予定している。さらに、アルコール、鉄刺激によりこれらの宿主因子のstellate細胞での発現量を検討したい。 本年度は全長HCV RNAを複製するヒト肝細胞(O細胞)とstellate細胞との共培養系を構築することができた。今後この共培養系を用いてHCVの肝線維化に及ぼす分子生物学的機構を解明し、さらに肝線維化を抑制する薬剤への応用へと研究を発展させていきたい。
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