[目的] 胚性幹細胞の分化に必須な遺伝子群の解析を目的とした研究において確立された遺伝子トラップの方法論を取り入れ、サイトメガロウイルス(CMV)感受性の細胞株にレトロウイルスベクターを用いてランダムな変異を導入した細胞ライブラリーを構築し、次にこの変異細胞ライブラリーから、CMVの感染・増殖、特に感染初期過程に欠損を生じた細胞クローンを得て、CMVの感染・増殖に必須な宿主細胞遺伝子群の同定を試みる。 [結果] 1.スプライシングアクセプターとIRES配列の下流にneo遺伝子を配し、loxPを含み転写開始活性がない3'LTRをもつMLV由来のレトロウイルスベクター産生用のプラスミドを構築した。このプラスミドとVSV-G蛋白をコードするプラスミドをMLVのgag-polを産生するパッケージング細胞にトランスフェクトしてレトロウイルスベクターを得た。得られたベクターの力価をHeLa細胞を用いて測定したところ約10^4/mlであった。 2.CMV感受性細胞であるテロメラーゼ遺伝子により不死化された繊維芽細胞hTERT-BJ1、神経芽種由来細胞株U373MG、及び網膜上皮由来細胞株ARPEにレトロウイルスベクターを感染させ、G418耐性となる細胞ライブラリーの構築を行った。これらの細胞上での力価は約10^3/mlとHeLaに比して低かったことから、現在上流のプロモーター活性が弱い場合にも細胞が生き残るようにレトロウイルスベクターの改変を行っている。 3.細胞ライブラリーを限界希釈後、96穴プレートにて培養し、いくつかのレプリカを用意した。各ウェルにCMV感染後、ガンシクロビル(GCV)存在下で培養し生き残る細胞があるかを検討した。これは、CMVが増殖する細胞ではCMV産物によりGCVが活性化され感染細胞は死滅することを利用してCMV増殖が阻害された可能性がある細胞を検索しようというものであるが、この方法での選択からは変異細胞を得ることができていない。そこで、LacZを発現するCMV株を感染させ、Xgalによる染色での選択も検討している。
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