異文化を背景に持つ外国人患者がわが国の医療現場でも増加してくる中で、日本人医師・医学生による診療現場での異文化コミュニケーションの医療人類学的視点からの現状把握や分析は殆んど行われていなかった。研究代表者は自らが10年来開発研究してきた模擬患者によるアプローチを使い、異文化を背景に持つ外国人患者と日本人医師・医学生の異文化コミュニケーションのありようと問題点を明らかにするために、医療人類学的視点から分析検討を行った。 異文化を背景に持つ外国人(アジア系、ヨーロッパ系、中南米系の3グループ)を対象としたフォーカスグループインタビューを行い、患者-医師間の異文化コミュニケーションにおいて起こりやすいコミュニケーションギャップを抽出した。 そこで抽出されたのは、1、システムの相違と医師の誠意の示し方の問題(「ここは小児を診ませんので他をあたってください」南米系女性ほか)、2、出産への認識の違い(「病気でもないのに出産後7日も何をしていればいいの?」南米系女性ほか)、3、民族的伝統治療法と生物医学治療のギャップの問題(「coca(コカインの原料)をください」南米系女性)、4、生物医学治療の土俗化と治療要求スタイルの相違の問題(「ステロイドの注射を打ってください」アジア系男性)、5、リスク・コミュニケーションのあり方の問題(「分かりきったことを言わないでください、分からないことを教えてください」複数より)6、保険システムの違い、経済負担、予防観の違い(「虫歯になっていないのに、何故治療をするの?」アジア系女性)、7、薬物療法のあり方の問題(「お弁当箱みたいに薬はいらない」南米系女性ほか)、8、医師-患者間の説明責任の問題(「先生は『はい、薬ね』と言ったきり、喉の組織を採取するわけでもありません」ヨーロッパ系アメリカ人女性ほか)、9、IT医療の問題(「ロボットに診てもらっているみたい」南米系女性ほか) これらに基づいて模擬患者用のシナリオを試験的に開発し、開発されたシナリオに基づき、模擬患者のトレーニングと養成を行い、模擬患者との医療面接セッションをビデオテープに記録し分析を行った。
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