研究概要 |
本研究において、薬理プロテオミクス解析の有効性と今後の具体的展開を明らかにしたので報告する。まずヒト血管平滑筋培養細胞に医薬品を作用させ、プロテオーム解析を実施し、治療応答発現蛋白質クラスターを得た。一方、薬理プロテオームデータベースを構築し、治療蛋白質クラスターと病態蛋白質クラスターの関連をin silico解析し、病態における医薬品の治療機構を、蛋白質クラスターとして予測した。この新しい薬理プロテオミクスは、in vitro解析とin silico解析を統合して、最終的にin vivo実験に応用し、プロテオーム解析により病態形成時の病態応答発現蛋白質クラスターに治療薬ターゲット分子が内在することを明らかにした。具体的には、くも膜下出血モデルにおいて、ストレス蛋白質の一つであるHSP72がプロテオームレベルで発現が上昇し、かつアンチセンスオリゴの投与によりHSP72の発現を抑制すると遅発性脳血管攣縮を悪化することを明らかにした(Circulation. 110:1839-1846,2004)。加えて独自に構築した薬理プロテオームデータベース解析(のべ文献数8670万、薬物13883種、疾患1214種)により、胃潰瘍治療薬テプレノン(Geranylgeranylacetone)の経口投与が、脳底動脈におけるHSP72の発現誘導を介して遅発性脳血管攣縮の改善を促進することを発見した(Circulation. 110:1839-1846,2004)。また、心不全モデルにおいて心筋カルモデュリン濃度やホスホジエステレースアイソザイム群の活性が変化することを見出した(J Mol Cell Cardiol. 37:767-774,2004)。本研究により薬理プロテオミクスは、今後薬理学研究の中心的役割を果たすことが示唆され、とくにプロテオーム創薬への展開が明らかとなった。
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