胎児期におけるメチル水銀曝露により、出生仔に神経行動学的な偏倚が惹起されることが明らかとなっている。この現象の生物学的な作用機作の1つとして、DNAのメチル化による遺伝子発現の乱れ、言い換えれば初期ontogenesisにおける障害にDNAメチル化が関与している可能性が考えられた。そこで本研究では、胎児期にメチル水銀投与された周産期仔マウスの脳のDNAメチル化の程度と行動の偏倚との関連を明らかにするための実験を計画した。2年目に当たる本年度は、a)昨年度にひきつづきゲノム全体のメチル化を定量するため、DNA methyltransferaseを用い、放射標識されたs-adenosyl-l-methionineのゲノムへの取込みを液体シンチレーションカウンターで測定した。予備検討として、マウスにはこれまでの報告でDNAメチル化が強く示唆されているヒ素曝露モデルを使用し検討した。その結果、DNAメチル化の分析に成功したものの、ヒ素曝露においても、必ずしもDNAメチル化は進行しないことが確認され、既報と食い違う結果となった。Bb)同様な分析をメチル水銀曝露モデルにて検証した。その結果についても、DNAメチル化の促進または抑制を示唆する明確な結果は得られなかった。以上の結果は、測定法上の過誤に由来する予期せぬ結果であるか、もしくはDNAメチル化は比較的低濃度曝露ではあまり明確ではない可能性を示唆するものであった。なお、メチル水銀曝露により神経行動学的な偏倚が惹起されることは、行動実験を行って確認済みである。今後について、方法論上の検討としては、DNAメチル化について、遺伝子上の特定部位に着目した分析が可能であり、またより特異的な分析手法の開発も報告されつつある。そのような知見を応用しつつ再検証が必要と考えられた。
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