自律神経機能の評価指標として、これまで心拍変動の周波数解析で得られるHFやLF/HFがしばしば用いられてきた。本研究では、虹彩を支配する自律神経を対象に、対光反射を用いずに光量調節反応や近見反応を起こさない条件(定照度と定焦点)下において、瞳孔サイズの変化から交感神経活動と副交感神経活動を定量的に評価するための瞳孔計測表示装置を開発し、その有用性を評価した。赤外線照射器から近赤外光(810nm)を被験者の片眼に照射し、レンズ先端に赤外線透過フィルターを取り付けたデジタルビデオカメラレコーダーを用いて、1秒間あたり30フレーム(1フレーム640×480画素)の眼画像をノート型コンピュータに取り込み、瞳孔面積などを実時間で計測・表示できる装置を完成させた。あらかじめ指定した瞳孔領域を解析対象として自動認識し、一定の濃淡閾値を設定することによって、その後の全ての眼画像について、瞳孔の中心座標と輪郭の楕円近似から、瞳孔の中心や面積などを実時間で時系列的に表示することを可能とした。この装置を用いて、被験者が針で風船を刺す風船割り実験、快適あるいは不快なニオイを嗅いでもらう嗅覚刺激実験、手指を冷水ないし温水に浸ける温度刺激実験などを行った。風船割り実験では、針を刺す行為の約3秒前から瞳孔面積の増大(散瞳)が始まり、針刺し時点から1〜2秒後に瞳孔面積が最大になり、その後速やかに元より小さくなった。この実験から、交感神経の興奮によって瞳孔面積が最大になるには刺激から1〜2秒の時間遅れがあることが分かった。一方、副交感神経を即座に興奮させられる刺激法が見つかっていないため、今のところ、この装置で副交感神経の興奮を即座に評価できるかどうか分からない。しかし、本研究によって、瞳孔サイズの変化から自律神経機能の変化を実時間で評価できることが明らかにされた。
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