昨年度は、小柴胡湯(SST)または大柴胡湯(DST)を1ヶ月にわたって飲水投与したラット、および対照として水を投与したラットの肝臓からmRNAを調製し、これを鋳型としてそれぞれ約3万タグからなるSAGEライブラリーを構築し、各タグの配列から発現遺伝子の頻度を比較した。その結果、SST投与群で対照群と比較して4倍以上に発現頻度が増加している遺伝子として99種を、DST投与群で4倍以上に発現頻度が増加している遺伝子として93種を同定した。また、対照群と比較して4倍以上に発現頻度が低下している遺伝子としてSST投与群で103種、DST投与群で115種を同定した。さらに、これらの遺伝子のうち薬物代謝をはじめとして薬剤感受性に関与する遺伝子を検索した結果、ABCトランスポーター、硫酸抱合酵素、グルクロン酸抱合酵素等のサブファミリーに属する遺伝子を見出した。 今年度は、これらのトランスポーターおよび酵素遺伝子の塩基配列に基づいてプライマーを設計し、リアルタイムPCR法を用いてそのmRNA量の変動を検証した。その結果、いずれの候補遺伝子に関してもmRNA量の有意な変動は観察されなかった。さらに、SSTおよびDDTを長期投与したラット肝臓からミクロゾームを調製し、そのcytochrome P450活性をいくつかの分子種で測定して比較したが、有意な活性の変動は認められなかった。また、長期投与期間中の尿中代謝産物のHPLCプロファイルにも顕著な変動は見られなかった。 これらの結果は、健常動物にSSTやDSTを投与しても遺伝子発現のレベルでは薬物代謝酵素に顕著な影響は及ぼさず、薬物相互作用は全体として問題にならないことを示唆している。
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