胃粘膜は胃腔内からの刺激によって表層性傷害を受けても迅速に修復される。修復のため表層は遊走してくる細胞は組織幹細胞に由来すると推定されている。我々は中枢神経系の幹細胞マーカーであるMusashi-1(Msi-1)とmammalian hairy and enhancer-of-split homologue(HES)の粘膜再生時における変動を検討した。 Western blotによる検討では、HES1-6のなかでHES5のみがラット胃体部に発現していた。Msi-XとHES5の二重染色を行うと、腺峡部にMsi-1単独陽性細胞およびMsi-1とHES5共陽性細胞が存在し、その下方にHES5単独陽性細胞が分布していることが分かった。しかしMsi-1とHES5細胞はいずれもH^+K^+-ATPaseを共発現しており、腺峡部の壁細胞がMs-1とHESを発現し、その近傍に存在する幹細胞の環境を維持していると考えられた。 エタノール投与後、表層粘液細胞と峡部のMs-1、HES5陽性細胞は剥脱したが、腺頚部にMs-1、HESSが誘導され、これらの陽性細胞は一過性に増加した。一方、PCNA陽性細胞は傷害後早期に粘膜から消失した。しかし修復後期には、反対にMs-1、HES5陽性細胞は正常時より減少した。PCNA陽性細胞はエタノール投与6時間後から再出現し、7日後まで漸次増加していった。すなわち傷害により腺峡部にある幹細胞は脱落するが、胃粘膜はその再生初期の段階で、機能細胞の分化・増殖に先立って、幹細胞を腺頚部において補充すると考えられる。その後の修復過程で粘膜は増殖、分化の段階に推移し、機能細胞が補充されて粘膜の再生が完成するものと思われる。
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