研究課題
背景:近年、細胞の老化が酸化ストレス等により短期間のうちに誘導されることが増殖細胞において明らかにされた。この現象は早期老化と呼ばれる。我々は非増殖細胞である心筋細胞においても早期老化が細胞周期制御因子を介して起こり、細胞の機能を低下させている可能性があると考えた。本研究はアポトーシスを誘導しない低濃度のドキソルビシン刺激により培養心筋細胞に酸化ストレスを与え、加齢に伴う変化と比較することで心筋細胞に早期老化が起こるかどうか検討することを目的とする。方法および結果:ドキソルビシン10^<-6>mol/Lを加えた心筋細胞や心筋線維芽細胞ではアポトーシスが誘導されたが、ドキソルビシン10^<-7>mol/Lを加えてもアポトーシスは誘導されなかった。しかし、心筋線維芽細胞の増殖能は有意に低下し、老化細胞のマーカーであるsenescence-associated beta-galactosidase (SA beta-Gal)染色陽性細胞が有意に増加し、cdk抑制因子であるp21^<cip1/waf1>やp27^<kip1>蛋白も発現が増加していた。非増殖細胞である心筋細胞では、ドキソルビシン10^<-7>mol/Lを添加して7日間培養するとSA beta-gal陽性細胞が有意に増加し、p21^<cip1/waf1>やp27^<kip1>蛋白の発現も増加していた。また、成獣ラットの心筋組織においても加齢に伴ってSA beta-gal陽性の心筋細胞が有意に増加していた。p21^<cip1/waf1>やp27^<kip1>の蛋白発現量は加齢と共に増加していた。加齢ラットの心筋ではTroponin I (TnI)のリン酸化が低下するが、ドキソルビシン10^<-7>mol/Lを添加した心筋細胞のTnIのリン酸化もまたbaselineにおいて著明に低下していた。さらに、イソプロテレノール刺激によるTnIリン酸化の反応も有意に反応が低下していた。加齢に伴う心筋細胞における各種遺伝子の発現レベルの変化についてもNorthern blotting・定量的RT-PCR法にて検討したが、GATA4,Nkx2.5,alpha-MHCなどは発現低下、ANP, Angiotensin II, beta-MHCなどの発現は増加しており、低濃度ドキソルビシン刺激心筋細胞においても同様の変化がみられた。テロメラーゼ活性は加齢とともにその活性が低下するが、低濃度ドキソルビシン刺激心筋細胞のテロメラーゼ活性をTRAP法にて検討したところ、経時的に低下していた。総括:低濃度のドキソルビシン刺激により培養心筋細胞は加齢に伴う変化と類似した変化が誘導されることが示され、心筋細胞にも早期老化が誘導され、心筋障害の一因となっている可能性が示唆された。
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