研究概要 |
シリコンを先端に塗布したフィラメントをマウスの頸動脈より導入して中大脳動脈を閉塞することにより脳虚血障害を作成し、このモデルをAT1a受容体遺伝子欠損(AT1aKO)マウスおよびAT2受容体遺伝子欠損(AT2KO)マウスに施行した。中大脳動脈閉塞術後24時間目に虚血領域を測定すると、虚血領域はAT1aKOマウスにおいて対照群より有意に減少していたが、AT2KOマウスにおいては逆に増強していた。AT1aKOマウスにおいては神経障害の指標である神経学的スコアも対照群に比して軽減しており、術後の死亡率も低かった。これらの変化もAT2KOマウスにおいては対照群よりも増強していた。中大脳動脈閉塞前後の脳表層血流変化を調べると、中大脳動脈支配域周辺部における術後の血流低下の程度がAT1aKOマウスにおいては抑制されており、AT2KOマウスにおいては逆に増強していることが判明した。これに加えて、superoxide産生をdihydroethidiumによって組織化学的に検出すると、脳虚血部位においてその産生が増加していたが、この変化はAT1aKOマウスにおいて減弱しており、AT2KOマウスでは増強していた。さらに対照マウスにAT1受容体ブロッカーであるValsartan(1.0〜3.0mg/kg/day)をあらかじめ10日間投与しておくと、血圧の変化に影響することなく、閉塞術後の脳虚血域、脳表層血流の変化、虚血部位におけるsuperoxide産生の変化が有意に抑制されたが、これらの作用はAT2KOマウスでは減弱していた。以上の実験結果は、虚血性脳障害においてAT1a受容体がそれを増強する作用を有しており、これに対してAT2受容体は拮抗的に働くことを示唆している。以上の結果は、Circulation,110,843-848,2004に報告しております。
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