研究概要 |
昨年度は、1)丸ごと心臓における最適X線回折像の取得法の確立と2)正常及び病的心臓(主に虚血心)におけるクロスブリッジの収縮・拡張中の挙動、特に心室圧-容積関係との対応について研究を進めた。本年度は、X線回折像解析から得られる2つの指標(アクチン・ミオシン間の質量移動及びミオシン・ミオシン間の距離)の変化を、リアノジン投与前後でβ-アドレナリン受容体刺激薬を投与した条件で計測した。目的はβ受容体刺激による心収縮性増大に細胞内Ca^<2+>放出機構がどのように関わるかを調べることである。 大型放射光施設SPring-8(BL40XU)で実験を行った。準単色放射光(波長:0.08nm、幅:0.2x0.2mm、X線エネルギー15keV)をラット左心室に当て、心筋の小角散乱をX線イメージインテンシファイアと組み合わせた高速CCDカメラで記録した。麻酔下の雄、11週齢、正常ラット(SD)において、胸壁を部分的に取り去り、コンダクタンスカテーテルとマイクロマノメータを左室に直接挿入し、左室の圧-容積関係とX線回折像の同時記録を行った。その結果、回折像には2つの顕著な回折ピーク、(1,0)反射と(1,1)反射があり、心筋収縮・拡張によってそれらの強度は変化することが分かった。このデータから心筋運動の両反射強度への影響を取り除くため、(1,0)反射と(1,1)反射の強度比(ミオシンとアクチン間の質量移動を反映)を解析した。また、ミオシン・ミオシン間の距離(d1.0)は、心筋細胞の伸展度合いを表し、拡張期におけるd1,0が小さい程心筋は伸展しており、より大きな収縮力を生み出す、つまり、スターリングの法則の指標となる。 ドブタミン(β_1受容体刺激薬)は、ラット正常心臓の1回拍出量と心拍数を増大させた。この時、(1,0)反射と(1,1)反射の強度比の収縮・拡張間の変化、つまりミオシンヘッドのアクチンへの移動による質量移動は増大し、拡張期のd1,0は減少した。これらはドブタミンの心収縮性増大を矛盾無く説明した。筋小胞体からの細胞内Ca^<2+>放出を抑制するリアノジンを投与後、ドブタミンを投与してもリアノジン投与前の状態まで心収縮力を回復することは出来なかった。この時、ミオシンとアクチン間の質量移動の低下と同時に、ドブタミンによる拡張期d1,0の減少が消失した。このことから、β受容体刺激時の心筋収縮性増大には、以前から推測されているprotein kinase Aを介してのアクチンフィラメント活性化以外に、ミオシン間距離の減少が関与しており、この減少機構には細胞内からのCa^<2+>放出が関与することが示唆された。
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