研究概要 |
緒言:肺気腫は、肺胞壁が破壊され病変が形成される。肺胞壁は細胞外基質からなり、多くはコラーゲン線維が占める。コラーゲン線維は肺胞構造を維持するために重要と考えられているが、肺気腫におけるコラーゲン線維の役割には不明な点が多い。コラーゲン線維を機能面からみると、線維配列の向きと配向度、つまり配向性が重要となる。近年、Osakiらはコラーゲン線維の配向性を非接触で定量的に測定できるマイクロ波方式(S.Osaki, Nature,347,132,1990)を開発し、皮膚や骨でのコラーゲン線維配向性は、その運動性と密接な関連があることを報告してきた(S.Osaki, Anat.Rec.,254,147,1999)。本研究は、配向性測定のためのヒト肺サンプルを調製し、肺気腫におけるコラーゲン線維の配向性の変化を検討することが目的である。 実験:本研究で用いた標本は、肺癌で摘出した気腫性病変を伴う左上葉である。昨年度確立したラット肺、牛肉片でのサンプル調製方法に基づき、測定用サンプルを調製した。上葉をホルマリン固定後、冠状に10mm厚に切り出し、80mm四方に分割した。パラフィンを包埋後、トリミングナイフを用いて2mm厚に切り取った切片を、70%エタノール液に浸漬してパラフィンを除去した。デシケータ内で乾燥させ、測定用サンプルとした。コラーゲン線維の配向性測定はマイクロ波方式にて行った。 結果:気腫を伴うヒト肺では、コラーゲン線維の配向度が高い領域と低い領域が存在した。気腫病変を形成している空隙は、前者は楕円形、後者は円形であった。その楕円の長軸方向はマイクロ波方式で測定したコラーゲン線維の配向性の方向とほぼ一致した。ヒト肺気腫病変のなかには、呼吸運動による一方向に強い力学的負荷により空隙が楕円に変形し、コラーゲン線維の配向性の再構築も起こっている領域が存在していると考えられる。
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