研究概要 |
平成17年度は以下の実験結果を得た: 1)造血幹細胞の維持増幅を促進する因子を発現していると考えられているマウス骨髄ストローマ細胞およびマウス・ストローマ細胞株OP9をはじめ、間葉系細胞株STO、MS-5、S17細胞などから、機能が未知の膜タンパク質を検索した。多数の完全長膜タンパク質cDNAをRT-PCR法で単離し、発現ベクターpcDNA3.1に導入し、マウス繊維芽細胞NIH3T3から樹立した亜株NIH3T3clone6細胞およびCOS-7にトランスフェクトし遺伝子が発現しているトランスフェクタントを得た。造血幹細胞KSL細胞(c-kit^+,Sca-1^-,lin^-)をトランスフェクタントと共に無血清培地で培養し、造血幹細胞の増幅能を指標にアッセイし、造血幹細胞の維持増幅を促進させるcDNAを同定した。その配列解析から、この遺伝子にコードされている膜タンパク質は、最近報告(Blood First Edition Paper, prepublished online February 2,2006)されたThsd1/Tmtsp(Transmembrane molecule with a thrombospondin domain)と同一であることが判明した。更に造血幹細胞とThsd1/Tmtspを発現するフィーダー細胞(NIH3T3トランスフェクタント及びCOS-7トランスフェクタント)を無血清培地で共培養することにより、造血幹細胞を分化させることなく効率よくin vitroで増幅することが出来た。 2)本研究者らが既に作出に成功したスフィンゴ糖脂質ガングリオシドGM3合成酵素遺伝子欠損マウスSAT-1^<-/->の造血能の検索を、LT-BMC法、LTC-IC法(Long-term culture initiating cell assay)を駆使して行い、膜分子ガングリオシドの造血能における機能を解析した。遺伝子欠損マウスでは脳組織をはじめ各組織のガングリオシド組成が著変し、正常マウスで主成分を成しているガングリオ系分子種が完全に欠損し、アシアロ系並びにα系分子種が主成分を形成していた。造血能に関しては、骨髄系造血、リンパ球系造血ともに、遺伝子欠損マウスと正常マウス間に有意な変化は認められなかった。一方、我々は、ガングリオシドGM3合成酵素欠損マウスの大脳から分離した顆粒細胞を使って、ボツリヌス毒素C型受容体BoNT/Cは毒性効力(グルタミン酸遊離阻害作用)を発揮できないが、BoNT/Dはグルタミン酸遊離を阻害できることを見出した。このことは、BoNT/CはガングリオシドGD1b及びGT1bを機能性受容体として認識し、一方、BoNT/Dはガングリオシド非依存性に、恐らくホスファチジルエタノールアミンとの結合を介して、毒性を発揮するものであることを示唆した。
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