DNAメチル化による制御(エピジェネティック制御)は、DNA配列の一次遺伝情報を変えることなく遺伝子の形質発現の多様性を生み出すメカニズムとして、高等生物の発生・分化において巧妙に利用されている。X染色体の不活化やゲノムインプリンティングは最も解明が進んでいるエピジェネティクス分野で、各遺伝子領域に含まれるCpG islandの5-メチルシトシンが直接、遺伝子の転写活性の制御に関与することが証明されている。精神神経疾患のエピジェネティクスに関する報告はほとんどないことから、本研究では統合失調症や気分障害などの病態にDNAメチル化の異常が関与するかどうかを明らかにすることを目的とした。解析はオリジナルなゲノムアレイスクリーニングシステムを用いた。このアレイでは、ホメオボックス転写因子や細胞増殖・アポトーシスの情報伝達に関与するシグナル分子などの遺伝子発現に直接関与するプロモーター領域のCpG islandのメチル化状態を簡便に検出できる。プローブには、患者および対照の血液から得たゲノムから既報に則りメチル化断片を調製し、それぞれCy3またはCy5蛍光ラベルしたものを用いた。このスクリーニングにより、複数のプロモーターCpG island領域で傾向強度の変化が検出された。これらの遺伝子領域について、bisulfiteシーケンス法を用いて個々のCpGのメチル化状態の解析を行うことで、ゲノムメチル化に有意な差異がある遺伝子領域を数個同定することに成功した。現在、これらの遺伝子について、転写量やタンパク質発現を解析している。これらの成果に関連する知見は皆無で、極めて新規性に富むと考えられる。なるべく早い機会に公表したい。
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