放射線によりepidermal growth factor(EGF)受容体が活性化し、それにより細胞は放射線抵抗性になることが報告されているが、機序に関する報告はない。申請者による実験の結果では、放射線照射した後抗EGF抗体で免疫沈降した後抗チロシン抗体を用いて調べるとリン酸化は亢進しているが、活性化に重要な部位に特異的な抗チロシン抗体を用いると幾つかの部位でリン酸化は亢進していない。このことは、放射線によるEGF受容体の活性化はtrans-activationによるもので、他に最初に活性化している部位があることが示唆される。EGF受容体を活性化するprotein tyrosine phosphataseであるSHP-2が放射線で活性化するかどうかを調べた結果、照射によるERK1/2活性化とほぼ同じタイムコースでSHP-2が活性化することが明らかとなった。SHP-2はSrcにより活性化するため、Srcの阻害剤PP2がSHP-2とERK1/2の活性化に及ぼす影響を検討した。その結果、PP2は放射線照射によるSHP-2とERK1/2の活性化を抑制した。このことから、放射線こよるSHP-2とERK1/2の活性化はSrcに由来すると考えられた。Srcとその上流に位置するPTPαが放射線により活性化するかどうかをリン酸化部位特異的抗体を用いて調べた結果、SrcとPTPαは照射1時間後以降活性化するが照射直後には活性化しないことが明らかとなった。この結果はSrc阻害剤PP2が照射直後に観察されるSHP-2とERK1/2の活性化を抑制する事実と矛盾する。その原因としてはSrcはリン酸化非依存性に活性化することも報告されていることから、放射線照射後のSrc活性化もリン酸化非依存性であることが考えられた。このためSrc活性を直接測定することが必要であると考えられた。
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