脳死判定の際に使用される厚生省脳死判定基準は鼓膜損傷、頚髄損傷、視力あるいは内耳障害を有する際には脳幹反射の評価ができないために、脳死判定はできない。このような脳死の判定困難な症例に対して、補助検査を利用して脳死判定が可能であれば、その意義は大であると考える。当施設に入院した患者の中で厚生省脳死判定基準に則った脳死判定の際にABRとSSEPが同時に施行された19例を対象とした。なお、元来自覚的聴力障害や鼓膜損傷を有している症例はなかった。 ABRは鼓膜損傷がないことを確認した後、行った。SSEPも同様に日本光電製Neuropach Σを使用し、測定した。対象の19例はいずれも脳死と診断され、その後心停止に至った。年齢は45-83歳、平均66.8歳であった。性別は男性9例、女性10例で、基礎疾患は一次性脳障害である脳出血6例、くも膜下出血3例、脳梗塞2例、二次性脳障害である縊頚2例、急性心筋梗塞1例、窒息1例、その他4例であった。1回目の脳死判定でABRの1〜V波が全て消失していた症例は14例であった。1回目の脳死判定で1波のみが4例、I及びII波のみ出現した症例が1例であった。しかし、6時間以上を経過した2回目の脳死判定ではいずれの症例もI-V波は全て消失した。一方、SSEPのP9は全2回とも認められたが、P13、N18、N20はいずれも消失していた。 SSEPとABRの神経経路は近接し、このような場合もSSEPはABR検査を補完することが可能である。ABRは橋から中脳の機能を検査するものであるが、延髄機能を評価できない。また、脳死判定時にP9が出現するため、有効な刺激が脳幹に作用していることを確認することができる。モンタージュを工夫することでSSEPは延髄襖状核由来のN18が同定可能であり、脳死判定の補助診断として有用であり、脳死判定にて使用される厚生省脳死判定基準で判定できないような症例、すなわち鼓膜損傷、眼球損傷、頚髄損傷等においてもこれらの補助検査を使用することで脳死判定か可能になると考えられる。
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