研究概要 |
【目的】癌細胞の悪性形質に関わる複数の遺伝子発現を調節するには、遺伝子発現を支配する転写因子を制御することにより可能になる。我々が着目したのは、アデノウイルスが増殖に際して発現するE1A遺伝子である。本研究で、VEGF等の血管新生因子やMMPなどの浸潤関連遺伝子の発現に重要な転写因子Hypoxia Inducible Factor(HIF), Etsなどに共通して必須な因子p300にE1Aが結合することを利用し、腫瘍血管新生や浸潤能を制御することである。さらにウイルスのファイバーノブをRGD構造に改変しアデノウイルスベクターの導入効率を改善させる。【方法】膵癌細胞4種に対し様々なE1Aをもつアデノウイルスベクター5種を感染させ、1)ウイルス感染、低酸素負荷時のVEGF濃度の測定(ELISA法),VEGF mRnAの発現(RT-PCR法)、2)E1A, p300による免疫沈降実験、3)皮下腫瘍モデルにおける腫瘍血管新生の検討を行った。また、4)RGD改変ファイバーを有するアデノウイルスの感染効率を野生型ウイルスと比較した。【結果】1)低酸素刺激によりp300結合部位をもたないE1A発現細胞ではVEGF蛋白,mRNAの発現が高まり、野生E1A発現細胞では未刺激時の時同等に抑制された。2)免疫沈降実験でp300結合部位をもたないE1A発現細胞ではp300との結合が低下し、E1A発現細胞での低酸素時VEGF低下にはE1A, p300の結合の関与が示唆された。3)in vivoでもp300結合部位をもたないウイルス感染細胞では野生E1A群に比べ血管新生が強く認められた。4)RGD改変ファイバーを有するアデノウイルスでは有意に感染効率が改善した。【考察】野生E1Aを発現する制限増殖型アデノウイルスにより腫瘍血管新生を抑制できる可能性が示唆された。また、改変RGDファイバーを有する制限増殖型アデノウイルスは効果的な治療手段となると考えられた。
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