ゼラチンは生体内の酵素で容易に分解されまた化学的修飾、加工が容易であり、数々の薬物、蛋白のキャリアーとして利用されている。今年度、我々は、ゼラチンを陽イオン化させることによりDNAプラスミドと複合体を形成し、種々の細胞に対しin vitroでの遺伝子導入実験を試み、またin vivoでの遺伝子発現についても検討した。 【陽イオン化ゼラチン粒子の作製】ゼラチンを陽イオン化し、グルタールアルデヒドにより架橋し、直径10から20μmのゼラチン粒子を作製した。また、陽イオン化ゼラチンを蒸留水に溶解し、ゼラチン水溶液とした。ゼラチン粒子あるいは水溶液をプラスミドDNAと混合し、複合体を作製した。複合体は電化のバランスが最適になるようにゼラチン単位あたりの最適DNA量を決定した。 【in vitroでの遺伝子導入】COS-7やNIH3T3細胞およびヒト胃癌細胞株MKN74などの哺乳類動物細胞に陽イオン化ゼラチン水溶液での遺伝子発現を認めた。しかし、ゼラチン粒子ではin vitroでは分解までに時間がかかり、明らかな遺伝子発現を確認できなかった。また遺伝子発現の程度は市販のリポフェクタミンよりはやや劣るものであった。また、ヒト末梢血単球より誘導した樹状細胞に対する遺伝子導入にも成功した。 【in vivoでの遺伝子導入】ゼラチン粒子をマウス腹腔内へ投与したところ、大網や腸間膜に分布する乳斑組織に集積することを確認した。そこで、ゼラチン粒子-プラスミドDNA複合体をマウス腹腔内投与し、乳斑における遺伝子発現の有無について検討した。マーカー遺伝子としてGFPを用いたところ、同部位における選択的な遺伝子発現が得られた。現在、腹膜転移治療を想定し、NK4、IL-12などの治療遺伝子を用いた遺伝子発現の検討を行っている。
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