【研究目的】癌細胞の中にはメチオニン存在下でないと増殖しないものがあり・メチオニン依存性という現象として知られている。メチオニンは必須アミノ酸であり、食物からの供給が必要である。しかしながら、細胞内にはメチオニン・サルベージ経路が存在し、非小細胞肺癌の約40%で欠損している酵素methylthioadenosine phosphorylase (MTAP)が重要な役割を果たしてい。MTAP欠損肺癌は『メチオニン依存性』であると予想されるので、本萌芽研究では、メチオニン欠乏状態が抗癌剤の抗腫瘍効果を増強させるかどうかの検討を行った。 【研究方法】(1)細胞培養:肺癌細胞株は、10%FCSを含むRPMI-1640を用いてCO2インキュベーターで培養した。(2)ヒトMTAP cDNAを組込んだMTAP発現ベクターを作製した。(3)MTAP遺伝子強制発現細胞株の作製:肺癌細胞株A549にMTAP発現ベクターを移入し、MTAP発現A549細胞株を樹立した。ベクターのみを移入した細胞株をコントロールとして用いた。(4)肺癌細胞株の増殖に対する発現MTAPの効果:MTAP発現A549細胞(A549/MTAP+)およびコントロールA549細胞(A547/MTAP-)をPBSで洗浄後、種々の濃度の抗癌剤を含む培養液に浮遊させ、2.5x10^3細胞を96穴マイクロプレートの分注し、2日間培養後、MTT-assayにより増殖細胞数を測定した。 【研究結果】選択的化学療法剤として開発が進められているL-alanosineを種々の濃度で含む培養液でA549細胞を培養したところ、A549/MTAP-細胞では、L-alanosine濃度に依存して増殖抑制が認められ、そのIC50は約5μMであった。一方A549/MTAP+細胞は、L-alanosineに対して耐性を獲得し抗腫瘍効果は著しく減弱したことから、MTAP欠損癌細胞に対するL-alanosineの抗腫瘍効果への『メチオニン欠乏』による増強効果が期待された。しかし、同様の条件下で、メチオニンを含まない培養液でA549/MTAP-細胞を培養し、その効果を検討したところ、メチオニンの有無による細胞増殖に差を認めず、A549細胞はMTAP欠損細胞であるが、『メチオニン欠乏』非感受性細胞であると考えられた。したがって、肺癌化学療法における『メチオニン欠乏』による増強効果は、MTAP欠損腫瘍であるとともに、『メチオニン欠乏』感受性腫瘍に期待できることが示唆された。
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