悪性神経膠芽腫が治療困難となる要因の一つに強い浸潤能がある。我々は、神経膠芽腫浸潤メカニズムの解析から、新たな治療法開発に向けた計画を遂行した。 昨年度、腫瘍周囲の正常脳で発現するケモカインSDF-1αが神経膠芽腫細胞に化学走性を惹起させること、Rhoおよびそのエフェクター分子mDia1が浸潤メカニズムに関与することを証明した。そこで本年度は、これらの制御機構に関してさらなる詳細な解析を継続し、さらに浸潤過程で活性化が必須となる細胞外マトリックス分解酵素(matrix metalloproteinase : MMP)に関する制御機構の解析も遂行した。 Rho・mDia1の浸潤メカニズムの制御機構では、mDia1が浸潤過程のステップとなる細胞接着の再構築に関与することが実験結果から示唆されていた。更なる解析から、mDia1が接着の主要制御分子となるSrcの局在化を介して接着班再構築の制御を行っていること、細胞運動時の細胞極性や方向依存性の安定化微小管の制御を行っていることも確認された。また、細胞運動における主要制御分子の一つであるCdc42の局在化にもmDia1が関与することが明らかとなってきた。 細胞外マトリックス分解酵素(matrix metalloproteinase : MMP)に関する制御機構では、特にRho情報伝達系による制御メカニズムについて解析した。その結果、運動細胞先端部でCdc42が細胞外マトリックス分解酵素MMP2の分泌制御を行っていることが明らかになった。 本研究で得られた結果は、細胞骨格制御に関わるRho情報伝達系の細胞内シグナルが、悪性神経膠芽腫の浸潤メカニズムで作用するものであり、新たな治療標的分子の一つになりうることを示している。今後は、これら標的分子の阻害物質の開発およびその臨床応用が必要であり、更なる詳細な制御系の解析および臨床応用に向けた取り組みを新たに計画する予定である。
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