研究概要 |
Auroraは酵母から哺乳類まで高度に保存されたセリン・スレオニンキナーゼで正確な細胞分裂を行うための必須分子として同定された。ヒトではAurora-A,-B,-Cの3つのホモログが同定されているが、特にAurora-Aは脳腫瘍、乳癌、大腸癌などにおいて遺伝子レベルでの増幅と、タンパク質レベルでの過剰発現が高頻度に生じており、癌化との関連が注目されている。また、私たちはAurora-Aの野生型または酵素不活性型を安定発現したRat1線維芽細胞を樹立し種々の観察を行った結果、野生型Aurora-A発現細胞でのみ軟寒天培地内コロニー形成能、フォーカス形成能、ヌードマウスでの生着を認め、形質転換にはキナーゼ活性が必要であることを確認している。これらの所見からAurora-Aは新たな癌遺伝子と考えられ、脳腫瘍の発生及び悪性化にも関わっている可能性が強く疑われる。本研究は組織特異的にAurora-Aキナーゼを発現するトランスジェニックマウスを作製し、個体レベルでAurora-Aキナーゼの過剰発現と悪性腫瘍形成との関連を調べることを目的として行った。 以下に本年度の成果を要約する。 1)乳腺特異的にAurora-Aキナーゼを過剰発現したマウスでは2核細胞の出現を高頻度に見たが、その後細胞はアポトーシスに陥るため、長期間の観察において(15ヶ月以上)癌化は観察されなかった。しかし、そのアポトーシスはp53に依存していることが明らかになったため、p53ノックアウトマウスと交配したところ、約10ヶ月で腫瘍性の変化が乳腺に出現した。 2)乳腺同様にグリア特異的および皮膚特異的にAurora-Aが発現するトランスジェニックマウスを構築し、現在分裂期の異常、腫瘍化などの観察をおこなっている。また、これらのマウスもp53ノックアウトマウスと交配し、組織特異的な変化が見られるか否かについて観察中である。
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