遺伝情報に基づいた麻酔方法開発の基礎データとして、全身麻酔の術後合併症の1つである術後の嘔気・嘔吐(PONV)の発生に関連する遺伝子の多型を検索した。PONVは、PONVの既往がある人、車に酔いやすい人、非喫煙者に多いといった体質的な背景がその発生に関与している。遺伝子解析が進み、体質的な背景と遺伝子多型の関連が明らかになってきている。今回は、PONV治療にデキサメサゾンが有効であることから、サイトカインの遺伝子多型とPONVの発生頻度を検討した。 【方法】平成14年1月から10月の間に大阪府立成人病センターで全身麻酔(硬膜外併用も含む)を用いて手術を受けた患者の内、インフォームドコンセントが得られた1254人(男性611名、女性643名)を対象に行った。術前に7ml血液を採取し、遺伝子解析に用いた。PONVの発生は、手術当日および翌日に問診調査し、「嘔吐あり」または「嘔気により治療が必要であったもの」をPONVありとした。遺伝子多型と発生頻度の関係は、カイ2乗検定を用いて行い、p<0.05を有意とした。 【結果】今回検討した、IL-1β(C-31T)、IL-2(T-330G)、IL-4(C33T)、IL-10(T-819C)と手術当日及び翌日のPONV発生頻度とは、有意な関連は認められなかった。 【結語】術後の嘔気嘔吐は、致死的ではないが麻酔の質に大いに影響する術後合併症の一つである。現在増加している日帰り手術において、予定外入院の原因にもなっており、有効な対等策が求められている。その治療としてデキサメサゾンが有効との報告が散見される。デキサメサゾンの作用機序は十分解明されていないため、今回、サイトカインの遺伝子多型のPONVへの関与を検討したが、有意な知見は得られなかった。 今後、さらにPONVの発生、治療効果に関連する遺伝子多型を検討することで、PONVの発生機序が明らかになれば、麻酔の安全性を高めることが出来るのではと考えている。
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