研究概要 |
(目的)子宮内膜症病巣からの炎症性サイトカインやプロスタグランジン(PG)の産生は、子宮内膜症進展の一因である。MAPK(EEK,P38,JNK)はこれらの産生に重要な細胞内シグナル伝達物質とされるが、子宮内膜症細胞における役割は不明である。今回我々は、子宮内膜症の進展に関与する種々の分子に対し子宮内膜症細胞が応答する際のMAPKの意義について調べた。(方法)患者の同意の下に得られた子宮内膜症性卵巣嚢胞より、子宮内膜症間質細胞(ESC)を分離・培養した。ESCをIL-1β(5ng/ml),TNF-α(100ng/ml),H_2O_2(4mM)で15分刺激し各MAPKのリン酸化及び総蛋白の発現をWestern blotで調べた。IL-1β刺激下に各MAPKの特異的阻害剤(ERK阻害剤:PD98059 25mM,p38阻害剤:SB202190 10mM,JNK阻害剤:SP600125 10mM)を添加し、刺激4時間後のPG合成酵素COX-2 mRNAの発現を定量的PCRで、24時間後の培養上清中IL-6,IL-8濃度をELISA法にて測定した。(成績)IL-1β,TNF-α,H_2O_2各々の刺激により、ERK,p38,JNKすべてのリン酸化が認められ、IL-1β刺激において最も強くリン酸化が認められた。IL-1βはCOX-2 mRNA発現とIL-6,IL-8産生を刺激した。このIL-1βによる刺激作用は各種MAPK阻害剤により抑制され、COX-2 mRNA発現においてはp38>ERK>JNK各阻害剤の順で効果が認められた(各々10%,20%,50%に抑制)。IL-8産生に対する抑制作用は、p38>ERK=JNK各阻害剤の順(30%,70%,70%)で、IL-6産生に対してはp38>JNK>ERK各阻害剤の順(40%,90%,100%)であった。(結論)子宮内膜症細胞においてERK,p38,JNKすべてのリン酸化が炎症性物質の産生を介して子宮内膜症の進展に寄与していることが示唆され、なかでもp38を介する経路が最も重要であると推測された。特に、子宮内膜症の腹腔内で酸化ストレスが強く働いていることが示唆されており、今回明らかとなったH_2O_2の作用は酸化ストレスが子宮内膜症の進展を促進する機序の一部を示していると考えられる。
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