周産期医療において、脳性麻痺に代表される児の中枢神経機能障害の発症機序の解明と予防法は、未だ確立していない。これまで我々は、ラットによる検討で、ラットの胎仔は低酸素ストレスには抵抗性であるが、フリーラジカルによる酸化ストレスで容易に障害されることを明らかにしてきた。さらにこの酸化ストレスは、NO由来のPeroxynitriteやxanthine oxidase、lipoxygenase由来のフリーラジカルなどが中心で、胎仔脳内の脂質のみならずDNAをも酸化変性させ、ATP合成の中心であるミトコンドリア機能をも障害することを証明した。一方、予防学的観点から強い抗酸化作用を有し、胎盤通過性も良好であるメラトニンに注目し、メラトニンを経母体的に投与すると、虚血・再灌流による胎仔脳内の脂質、DNAの酸化損傷を強力に抑制することで、ミトコンドリア機能を著しく改善することも明らかにしてきた。さらに今回は、経母体的メラトニン投与による予防的効果を確立するために、新生仔ラットの脳ミトコンドリアの形態変化を電子顕微鏡下に検討した。酸化ストレスを受けたラットでは、ほとんどのミトコンドリアは膨化して、正常構造を示さなかったが、メラトニンの経母体的予防投与により、膨化したミトコンドリアは減少し、大部分は正常なミトコンドリア構造を認めた。また、出生後ラットにおいて、におい嗜好学習後の行動実験と、新生仔ラットの脳の組織学的検討を行った。酸化ストレスで障害された新生仔ラット脳の海馬組織は、メラトニン投与により障害を抑制し、行動実験においても学習能力の障害を抑制することを明らかにした。以上のことから、メラトニンの経母体的予防投与は、胎内での酸化ストレスによる新生仔ラット脳のミトコンドリア機能および脳の組織学的障害を抑制することのみならず、学習能力の障害も抑制することが証明された。
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