免疫不全症候群の代表的なものであるHIV感染症の病態と唾液量・成分との関連性について主に検討した。HIV感染症の病態・病期は主に血中ウィルスRNAコピー数およびCD4値で判定するが、血液検査は患者に与える苦痛・負担が大きく、変動が鋭敏でないため変化を検出できた時には手遅れの状態になっていることも少なくない。そこで、HIV感染者(107名、平均37.2歳)の唾液タンパク質成分における変動と同年代の健康成人(99名、平均36.5歳)とを比較した。さらに、一般に免疫力は加齢と共に衰えると考えられているので、健康高齢者(62名、平均72.0歳)とも比較した。HIV感染症被験者の病気・病態は米国CDC分類に基づき、CD4陽性細胞数のを基準にした3カテゴリーに分類し、被験者群に各カテゴリーをほぼ均等に含んでいることを確認した。 以下に試験項目・方法と得られた結果を示す。 1.唾液流量: 方法:ガムテスト 結果:HIV感染者では同年代の健康成人に比較し有意に低下していた。一方、健康高齢者では健康成人とほぼ変わらないことが示された。 2.唾液中抗菌タンパク質濃度: 方法:ELISA法(lysozyme検出法だけはMicrococcus lysodeikticusを用いた比濁法) 結果: (1)SLPI(Secreted leukocyte protease inhibitor):HIV感染者で有意に低下していた。 (2)Lactoferrin:高齢者で有意に上昇していた。 (3)lysozyme:ほとんど差がなかった。 (4)分泌型IgA : HIV感染者と高齢者で有意に上昇していた。 (5)MPO(Myeroperoxydase):HIV感染者で上昇傾向にあった。 以上の結果から、HIV感染者では唾液流量の減少と唾液抗菌タンパク質、とくにSLPI濃度の低下が認められ、病態と関連性を持つ可能性が示唆された。
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