一般に結合組織由来の細胞は、単層培養を繰り返すと本来持っていたの性質を失い、特徴のない線維芽細胞様細胞になっていく。そこで本研究の目的であるヒト歯根膜細胞が合成・分泌する細胞外マトリックス成分および細胞表面タンパク質を同定する為に、歯根膜組織と歯根膜由来の培養線維芽細胞との間でサブトラクションを行い、cDNAライブラリーを作成した。次に、このサブトラクションcDNAライブラリーからランダムにクローンを取り出し、各クローンがコードするcDNAを一つずつ調べた。その結果、I型コラーゲンやIII型コラーゲンを始めとする、歯根膜で特徴的に発現している分泌性タンパク質が、効率よく同定できることが明らかになった。しかも、解析したクローン数の増加に伴い、各タンパク質の検出頻度はその発現レベルにほぼ比例していることが明らかになってきた。こうした解析を通して既に、20種類を越える歯根膜特有の分泌性タンパク質を同定することができ、同時に多数の新規遺伝子が歯根膜において特徴的に発現していることも明らかにすることができた。現在、更に網羅的な解析を目指して、継続的にクローン解析を進めているが、同時に歯根膜組織での発現が今まで一切報告されていない成分については、発現レベルの高いものから順に、マウスを用いてin situハイブリダイゼーション法による組織化学的な解析を行っている。現在までに得られている結果では、少なくとも発現レベルの高い成分については、予想通り歯根膜での特異的な発現が確認できた。 シグナル配列特異的な遺伝子トラップ法による分泌タンパク質の同定については、ヒト培養歯根膜に対するレトロウイルスベクターの感染と薬剤選択の至適条件の検討を行った。同時に、歯根膜細胞の形質を安定に維持したまま培養できる条件を検討し、現在歯根膜細胞が合成分泌するタンパク質の解析を進めている。
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