研究概要 |
口腔は生体防御の最初の関門である。近年、Toll-like receptor(TLR)が、微生物認識の受容体で自然免疫において重要な役割を演じていることが明らかにされた。TLR4はエンドトキシン(LPS)の受容体で、これを介して、サイトカインが誘導される。本研究では、マウスにLPSを投与して実験的炎症状態を惹起した場合のTLR4を介した防御機構の機能を唾液や唾液腺において解析した。C3H/HeNマウスにおいてLPSはTLR4を介して唾液腺の炎症性サイトカインであるIL-1β,IL-6,およびTNF-αのmRNAを強く誘導した。一方、交感神経または副交感神経を切断した顎下腺においてもLPSはIL-1β mRNAを強く誘導した。しかしこれらの現象はTLR4変異体であるC3H/HeJマウスでは見られなかった。更に、顎下腺では、pro-IL-1β mRNAが検出され、LPS刺激により唾液腺や唾液中には大量の活性型IL-1β(20-および17.5-kDa)が誘導されたが、pro型IL-1β蛋白質は検出できなかった。In vitroにおいて本組織で強く発現しているカリクレインの一種、mK13がpro-IL-1βを含むLPS刺激マクロファージ抽出液から活性型IL-1βを与えた。pro-IL-1βペプチドはmK13の作用により水解され、2個のペプチド断片を与えた。そのアミノ酸配列の解析からmK13によるpro-IL-1βのプロセシング部位は^<113>Leu-^<114>Leuの間であると推定された。本研究結果より、LPSは中枢神経を経ず、直接顎下腺に作用し、IL-1βなどのサイトカインを誘導し、唾液中に分泌させること、活性型IL-1βがmK13の作用により産生されることなどが明らかになった。これらのことから、口腔における防御系として自然免疫が機能し、その中で唾液・唾液腺は重要な働きを担うと考えられた。
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