研究概要 |
近年、幹細胞に関する研究は歯科においても急速に発展しつつある。幹細胞の中でも間葉系幹細胞は、幹細胞治療やティッシュエンジニアリングにおいて大きな可能性を有している。本年は矯正学的理由により抜去されたヒト智歯歯胚における間葉系幹細胞を免疫組織化学的に検討した。 実験には矯正学的理由により抜去された8歳から12歳までの埋伏智歯を用いた。4%パラフォルムアルデヒドにて固定し、非脱灰のまま、通法に従いパラフィン包埋ならびに凍結包埋、H-E染色を施した。凍結切片は間葉系幹細胞に特異的に交差する抗体を用いて免疫組織化学染色を施した。用いた抗体は、STRO-1 (MAB1038; R&D Systems, Minneapolis, MN)ならびにCD146 (MAB16985X ; Chemicon International, Temecula, CA)である。 得られたヒト智歯歯胚は、歯冠の形成途上で歯根形成は開始していなかった。組織学的にはBell Stageに相当し、象牙前質の形成がみられたが石灰化はしていなかった。エナメル芽細胞の極性化はみられたが、エナメル質はまだ形成されていなかった。歯乳頭には血管が進入しており、ヘマトキシリン好性の基質で満たされていた。象牙芽細胞が配列していたが、その下にはまだ希薄層や稠密層は形成されていなかった。STRO-1およびCD146で染色した結果、いずれも特にエナメル芽細胞ならびに歯乳頭の血管周囲の細胞に強い発現を認めた。また、象牙芽細胞の一部にも陽性反応を認めた。 これまでの歯髄あるいは歯根膜の報告と伺様、形成途上の歯乳頭においても間葉系幹細胞は血管周囲の細胞に存在していることが確認された。エナメル芽細胞にも強い発現がみられたが、これまでこうした報告はなく、今後さらに検討する必要があると考えられた。
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