顎骨の組織工学的手法を用いた修復法の模索を行ってきた。骨形成においてはその形成の「場」を確保することが重要である。下顎骨骨欠損よりも骨形成の場を確保しやすく、臨床的頻度も高い上顎の顎裂部骨欠損をモデルとして用いた。左右の骨欠損が肉芽によって埋められてしまわないように、ゴムのチューブを貫通させ固定し、この欠損部がチューブで充填された状況下で3ヶ月間創の上皮化を待ち、欠損部の瘢痕治癒および骨形成性治癒を阻害することにより上顎顎裂部骨欠損のモデルを作成した。モデル作成が完了した犬の口腔内より約3cm四方の骨膜を採取した。採取した骨膜は一ヶ月ほど培養し、シート状になった培養骨膜に酵素処理を加えて細胞を単離した。顎裂部骨欠損の大きさにトリミングしたコラーゲンファイバーに単離した骨膜細胞を播種した。顎裂部骨欠損に細胞とコラーゲンファイバーの複合体、コラーゲンファイバーのみを各々左右側に移植してその骨形成に関する左右差を経時的にレントゲン撮影を行って評価した。移植から3〜4ヶ月後に犬をと殺して移植部位の骨形成に関して組織標本を作製して観察した。 現在のところ骨膜細胞とコラーゲンファイバーの複合体を移植したものがコラーゲンファイバーだけを移植したものよりもやや骨形成率が高いことが確認されている。今後は血管進入を誘導する細胞、生理活性物質を組み合わせることによりさらに早く確実に骨形成がされるように移植実験を重ねていく予定である。 またここで用いた培養骨膜シートの臨床的有効利用法の見地から、凍結保存方法の検討を行い、骨膜細胞の生細胞数などから最適な条件を決定した。またその凍結シートからの再生骨が通常の骨膜シートと同様、骨再生が見られることを明らかにした。
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