研究概要 |
生命の維持に酸素は必須であり,細胞には酸素欠乏(低酸素状態)を感知し,酸素供給の維持を厳密にコントロールするシステムが備わっている.口腔癌において,その微小環境は低酸素・低栄養を特徴とし,酸素感知・供給維持システムが腫瘍の発生や増殖・進展にも密接に関わっていると考えられている.また,治療の面では,腫瘍内低酸素細胞と化学療法や放射線療法への抵抗性との関連性が示唆され,詳細な分子機構の解明が望まれている.一方,低酸素ストレスは,以前より遺伝子不安定性誘発の要因として考えられているが,その詳細は未だ明らかとなっていない.本申請研究では,低酸素細胞における抗癌剤および放射線耐性機構を解明し,化学・放射線療法の効果予測診断および効果増強療法への応用展開をめざしている. まず,低酸素ストレスが細胞増殖に与える影響を検討するために,複数の口腔扁平上皮癌細胞株を様々な濃度の塩化コバルト(低酸素ストレス誘導剤)添加培地で培養した.200μMの塩化コバルト添加培地では,全ての細胞株の増殖が抑制された.一方,150および100μMではコントロールと比較して,増殖に差のある細胞と無い細胞が認められた.現在,増殖維持と抑制を決定するシグナルを同定すべく,これらの条件下における網羅的遺伝子発現解析を計画中である.また,同条件下における抗癌剤感受性をMTT法にて,検討中である. 一方,ある種の肝癌細胞株にて,細胞の遺伝子安定性維持に関わると考えられるミスマッチ修復遺伝子群の発現が低酸素ストレスにて変動すること,HIF-1を含む低酸素応答性転写因子がその発現調節に関わることを見出し,口腔癌細胞株においてもそれらの機構が働いていることを確認,検討中である.
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