研究概要 |
口腔癌などの固形癌において,その微小環境の特長として低酸素・低栄養が認識されている。同環境下では,酸素感知・供給維持システムが腫瘍の発生や増殖・進展さらに治療抵抗性にも密接に関わっていると考えられており,その詳細な分子機構の解明が望まれている。低酸素応答は主に,転写因子HIF-1により誘導される遺伝子発現変動により制御されていると考えられている。しかしながら,治療抵抗性などに関わる遺伝子発現変化等の分子機構は不明である。 本年度は,まず,6種類の口腔癌細胞株のHIF-1活性化能検討した。すなわち,通常酸素下(21%pO_2)および低酸素下(1%pO_2)にて培養し,HIF-α,Arnt蛋白発現,real-time RT-PCRによる既知の低酸素応答遺伝子発現誘導やHRE-luciferase reporter遺伝子導入によるHIF-1活性化能を比較した。低酸素刺激により全ての細胞株にてHIF-1α蛋白,機能の誘導が認められたが,その誘導能は様々であった(レポーター遺伝子誘導能は2.4〜8.5倍)。最も低酸素誘導能の高かったHSC2,低かったCa9-22を選び低酸素刺激による抗癌剤感受性の変化を検討した。その結果,低酸素の前処理または低酸素下での抗癌剤暴露により,HSC2は5-FUまたはCDDPに対する感受性の有意な低下を示したが,Ca9-22には変化は認められなかった。網羅的遺伝子発現解析(19881 probes)を行い,これらの細胞における遺伝子発現の相違を比較検討した。HSC2において,低酸素下培養による2倍以上の発現亢進は2638プローブに,2/3以下への発現低下は2881プローブに認められ,既知の低酸素応答遺伝子以外にも多くの興味深い未報告遺伝子が含まれていた。現在,発現変動の再現性,時間的経過,組織特異性,発現低下機構,癌細胞における意義についての検討を行っている。
|