嚥下障害の診断と治療の確立のためには、嚥下の生理運動の解明が必要である。しかし、嚥下運動は口腔や咽頭で行われるスピードの速い複雑な運動であり、従来の方法ではその詳細を明らかにすることはできなかった。そのため、あらたな研究手法の開発が望まれている。そこでヒューマノイド型ロボットを製作して嚥下の生理運動を解明し、障害の診断と治療に役立てることが本研究の目的である。 初年度である今年は、ロボット用の基礎データの収集と4次元構築を行った。まず健常者の嚥下運動時の4次元MRIを撮像した。フレームレートは66msecとしたので、1回の嚥下運動で35フレームの3次元画像が得られた。次に、矢状断と水平断、冠状断の3方向について各動画を切り出して、口腔や咽頭腔、喉頭腔ならびに食道腔の形態変化を経時的に観察するとともに、これらの画像をトレースした。最後にトレース画をもとに舌の動きを模式化して、舌運動を再現する仕組みを検討したところ、波状運動を行っていると考えられた。 次いで、ロボットの材料を決定した。骨格系は、CT画像をもとに光造形技術によって製作し、軟組織部分はシリコンを主体として製作した。舌運動の再現に当たっては、舌骨の運動は嚥下造影画像のデータからモデルを作り、舌体や舌根の運動は4次元MRIのデータから再現した。舌のアクチュエイターはMcKibben型人工筋肉で、圧縮空気と電空レギュレーターを使ってPCで制御する方式、制御方法はシークエンス制御とした。 その結果ロボットの舌運動とMRIの舌運動を比較したところ、両者は極めて近似していたので、動作実験を行ったところロボットは固形物を咽頭に送り込むことを確認できた。本研究によって、舌の送り込み運動が再現できたことから、嚥下運動全体を再現することが可能であると思われた。今後の成果は、嚥下障害のメカニズム解明のみならず、代償法や治療法の開発につながると考えられる。
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