研究概要 |
帯域や遅延が大きいネットワークにおいてTCP Renoを用いた場合においてスループットが低下することが問題点として挙げられる.この問題は,ウィンドウサイズの増加量を決定するパラメータが小さく,ウィンドウサイズの減少量を決定するパラメータが大きいことに起因している.この問題に対する解決法は数多く提案されているが,それらの多くはTCP Renoのウィンドウサイズ制御の基本的機構であるAIMD方式を引き継いでおり,その増減の量を決定するパラメータをネットワーク環境に応じて静的あるいは動的に調節することでスループットの改善を行っている.しかし,それらの多くは特に帯域や遅延が大きいネットワーク環境を想定した修正であるため,他の環境において適用された場合にも問題点を持たないかどうかは不明であり,本質的な解決を行っているとはいえない. そこで本研究では,インライン計測技術を用いて帯域に関する情報を取得し,その情報を用いてウィンドウサイズ制御を行うことによって,従来のTCP Renoにおける問題を本質的に改善するための新たなTCPの輻輳制御方式を提案している.提案手法においては、数理生態学において生物の個体数の変化を表すモデルとして有名なロジスティック増殖モデル,およびロトカ・ヴォルテラ競争モデルを適用する.これらのモデルをTCPのウィンドウサイズ制御へ適用するために,生物の個体数をデータ転送速度に,個体数の収束値である環境容量を物理帯域に,および種間の競争を同一リンク上の複数コネクションの競合にそれぞれ変換する.本研究では,提案方式の特性を数学的解析によって明らかにし,提案方式が持つパラメータ設定方法に関する議論を行った.また,シミュレーションを用いた性能評価を行い,TCP Renoおよびその改善手法と比較して高い性能を持つことを明らかにしている.
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