小脳プルキンエ細胞への興奮性シナプスでは、成熟動物において細胞障害などの不可逆的変化を起こさなくても、神経細胞の電気的な活動を修飾するだけで形態学的な変化を伴うシナプス結合の変化が起こる。成熟動物における神経活動依存的な回路網可塑性における、シナプス伝達の関与について検討するために、昨年度に引き続きシナプス部位へのAMPA受容体の輸送が障害されていることが知られているstargazerマウスをもちいて解析を行った。 Stargazerのプルキンエ細胞からホールセルパッチクランプ法で記録を行い、登上線維刺激で発生する興奮性シナプス電流を解析した。昨年までの解析により、stargazerにおいてはAMPA受容体を介するシナプス電流が有意に減少しており、その一つの原因としてシナプス伝達時に発生するシナプス間隙における伝達物質濃度上昇が低くなっている可能性が明らかになっている。そこで本年度は伝達物質濃度減少の要因について解析を行った。可能性として、(1)シナプス伝達時に同時に開口するシナプス小胞の数が減少している、(2)シナプス小胞一つ一つに含まれる伝達物質濃度が減少している、ことが考えられたが、解析の結果、(1)が原因であることを示唆する結果が得られた。また、登上線維シナプス電流の減少は、生後3週目より生後2ヵ月後の方が大きい傾向があった。これらの結果は、成熟動物における長期にわたるシナプス後部のAMPA受容体の機能阻害が、シナプス前終末からの伝達物質放出過程に機能異常を引き起こすことを示唆している。
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