本研究の目的は、カーボンナノチューブの低濃度な精密フィリング制御を行い新奇な電子状態およびデバイス特性を創製する事にある。有機分子を用いた化学的なドーピングや電界効果トランジスタ構造を用いると低濃度な精密フィリング制御が出来、一元特有のvan Hove特異点の状態密度の発散点にフェルミ面を設定する事が可能となる。この時、キャリア数は少数だが状態密度は理論的には無限大となりこれまでにない極めて異常な電子状態を創製できる。具体的には、以下の特性の発現を目標としている。 (1)状態密度発散点での伝導特性解明(2)薄膜トランジスタの状態密度スイッチング(3)孤立トランジスタの状態密度スイッチング 平成16年度は(1)と(2)を重点に研究を展開した。(1)では、化学的なドーピングによってキャリア数の制御を行いながら、単層カーボンナノチューブ薄膜の伝導特性の温度依存および磁場依存を明らかにした。これにより、薄膜の伝導特性はホッピング伝導で説明できる事や、キャリア数によって磁気抵抗の振る舞いが変る事などを明らかにした。また、(2)では液相プロセスによる薄膜トランジスタの作製に世界に先駆けて成功した。さらに、このトランジスタに電荷が蓄積される様子を、光吸収測定によってその場観察する事に成功した。加えて、電場による電子状態の変化(電場変調効果)の観測にも成功している。来年度も、孤立チューブを含め精密フィリング制御による電子状態の制御を行う。
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