研究概要 |
90℃以上でも生育可能な超好熱菌は耐熱性タンパクを産生し、また特異な代謝系などを有している。興味深いことに、これら超好熱菌においては生育に必須な機構や代謝を構成する遺伝子群がそのゲノム中に見いだされても、その一部は相同性解析から全く同定できない"missing gene"となっているケースが多い。本研究では我々が独自に解読した超好熱始原菌Thermococcus kodakaraensis KOD1株2.09Mbpゲノム上のこのような"missing gene"の同定と機能検証を進める。 T.kodakaraensisを研究対象とする最大の利点は形質転換手法が確立されており、遺伝学的手法を駆使できることである。一般に、機能未知遺伝子の機能同定に有力な手法の一つはランダム変異により各種表現型の変異株を単離し、その変異部位や相補遺伝子を同定することである。この手法をT.kodakaraensisに適用するため、超好熱菌ではこれまで例のないトランスポゾンによるランダム変異ライブラリーの作製を試みた。挿入配列による変異頻度が高いことが知られている好酸好熱菌Sulfolobus solfataricusおよび複合型トランスポゾンが挿入されている超好熱菌P.furiosusからtransposase遺伝子のクローニングおよびT.kodakaraensisにおけるトランスポゾン変異を試みているが、現在までにトランスポゾンの転移は確認できていない。今後、transposase遺伝子を強制発現させるプロモーター領域の導入やtransposaseが認識する反復配列、ベクターのデザインについて検討を加える。 一方、T.kodakaraensisにおいてペントース代謝系を構成するphsphopentomutase(Ppm)はホモログがゲノム上に存在しない"missing gene"であった。申請者は酵素活性を指標にPpmをT.kodakaraensis抽出液より同定し、本酵素が一次構造的にはphosphohexomutaseに類似しながらもデオキシリボース5リン酸に特異的な新規Ppmであることを示した。また申請者らがT.kodakaraensisで見い出した好熱菌固有の新規fructose 1,6-bisphosphataseが、実際に糖新生に関与していることを遺伝学的に証明した。
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