本年度は、まず昨年度開始した経済活動の空間集積の程度を測るスカラー指標(D指標)の開発を完成させ、1編の論文にまとめ出版した。このD指標は、集積の経済学における理論上の経済集積の概念/定義と、既存の実証分析で用いられてきた集積度指標におけるそれとの間にあった大きな乖離を除く目的で開発した。加えて、この指標は産業間の空間集積度の比較を統計的に行える唯一のものである点が、集積の経済学の実証研究における貢献となった。 しかし、D指標を含む既存の集積度指標はスカラー量により集積度を測るため、所与の集積度数の背後にある集積の空間パターンは特定できない(「新しい空間経済学」が示唆する集積の空間パターンの多様性について本年度3編の論文を執筆し、2編が出版済、1編本が近刊となっている)。そこで、産業の事業所立地データを用い、個々の事業所集積の空間範囲、および、集積の数・位置、つまり事業所集積の空間パターンを検出するための情報量基準に基づく方法の開発を進めた。集積の空間パターン/分布を統計的に特定する体系的手法は、今のところ存在しておらず、本手法の完成は、「新しい空間経済学」など産業集積の集積規模・間隔および産業間での空間的同期や、都市の規模・位置・産業構造など、経済集積の空間パターンを主要な研究対象とする、集積の経済学の理論での研究フロンティアに対して直接的な実証分析を可能とする初めての試みである。本手法は、本年度末時点では開発途上であるが、この研究成果は、来年度7月に私とトロント大学のGilles Durantonにより京都大学にて開催する、集積の空間パターンの実証分析に特化した国際学会「International Conference on the Empirical Methods for the Study of Economic Agglomerations」にて暫定的な成果を報告する予定である。
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