研究課題
ヒトは、生後1年半から2年ごろに、鏡に映る自分の姿を「自分である」と認識する。この結果は、ヒトが、自己を他者と区別して認識する能力が獲得された有力な証拠とされている。自己鏡映像を理解できるのは、ヒトだけではない。チンパンジーをはじめとするヒト以外の大型類人猿も、鏡に映った自己像を認識することができるとされている。では、自己の鏡映像を理解できるチンパンジーは、ヒトと同じように自己を認識する能力をもつと断言してよいのだろうか。興味深いことに、通常の鏡映像を理解するヒトの3歳児でも、人為的に2秒の遅延をはさんで自己映像を見せると、それを自分であると認識できなくなる(宮崎,2003)。つまり、自己映像を自己であると理解するには、時間軸という要因が大きく影響すると考えられる。そこで本年度は、チンパンジーおよびサルの自己映像を理解する能力と時間要因との関連を調べ、霊長類の自己認識能力の内容とその進化的基盤を再検討した。具体的には、1)通常の鏡に映る自己像を自分であると理解できるチンパンジー、2)理解できないチンパンジー、および、3)自己像を自分であると理解できない種であるフサオマキザル、を対象として、0.5-2.0秒の遅延をおいた自己映像にかんする認知実験をおこなった。その結果、通常の鏡に映る自己像を理解できるチンパンジーは、1.0秒以上の遅延をはさむと、自己の身体を探索する行動(舌の出し入れ、お尻をのぞく、おでこに触れる)を映像の前で多く示した。また、通常の鏡に映る自己像に向かって威嚇など攻撃的な反応を示すフサオマキザルは、1秒以上の遅延をはさんだ自己像にたいしては、攻撃的な反応を減少させた。一方で、遅延された自己像にたいする注視時間が長くなった。1秒以上の遅延をはさんだ自己像を彼らがどのように理解しているかを明らかにするため、来年度は、より詳細な実験を実施する予定である。
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発達 102(印刷中)
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Cognitive Development (In press)
Developmental Psychology (In press)