平成18年度の本研究は、多元化社会における「公」の問題について、日本においてはどのように解釈され教育に盛り込まれてきたかを明らかにしたものである。平成16年度はアメリカにおける多文化間教育の分析と多元主義社会における「公」教育観の変化、平成17年度はイギリスのシチズンシップ教育の成立過程と「宗教教育」「PSHE」「シチズンシップ」の住み分けについて重点的に研究を行った。これらの研究を基盤として、平成18年度は、日本における「公」観と欧米における市民教育観との異質性に注目したものである。 東アジア地域においては、近代以前のゆるやかな「テンカ」観と実質的な「クニ」観の二重性を、どのように近代以降の主権国家観に収斂させるか大きな問題であった。日本の近現代教育においても、儒教思想を基盤とする「公」観と、欧米的な立憲帝国主義または戦後の民主主義的国家観と相克が、近代の教育における「公」観に影響を及ぼしてきた。このような傾向性は、その後の公民的資質や公民教育観の持つ二重性として、現在の公民教育論に少なからぬ影響を与えており、さらに現代においてもシチズンシップ教育の導入に、さまざまな解釈を与えている。 なお、これらの研究成果は、平成18年7月にオクスフォードのオリエル・カレッジで行われた公民教育の国際学会で日本における公民教育の動向を報告するとともに、平成19年4月に同国際学会のシドニー大会で、近代日本の公民教育の思想的展開と現在の市民科作成への動向について関連を報告した。
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