これまで、放射光X線の持つ特性を利用した共鳴X線散乱手法により、d電子・f電子系での物性の鍵を握っている電荷・軌道状態を明らかにしてきた。本研究課題では、このRXS手法を発展させ、SPring-8で利用できるようになってきたコヒーレントなX線と組み合わせた‘共鳴・非共鳴'スペックル散乱手法を確立することを目標とした。しかしながら、2年間の研究により相転移に関係する微弱な散漫散乱測定には、コヒーレント光の強度が不足していることが判明した。そこで本年度は、SPring-8のビームライン(BL-22XU)にミラー集光システムを導入し、最終的に200nm以下にコヒーレント光を集光することに成功した。その結果、微弱なスペックル散乱の観測が可能となり、以下の実験を行った。(1)誘電体リラクサー中のドメイン構造の温度依存性をコヒーレント散乱から求まる空間相関から調べることに成功した。一方、リラクサー中のドメインの揺らぎ(時間相関)を捉えるには至らなかった。(2)Yb4As3系における価数搖動相での価数搖動を反映している散漫散乱強度が、表面の処理に依存して桁違いに変化すること、低温の電荷秩序相の状態は処理による違いがないこと、を明らかにした。これはSrTiO3においてBulkと表面からの寄与である2種類の短距離秩序状態が観測されていることと対応し、表面処理に依存して表面の成分である電荷の短距離秩序状態が変化しているものと考えられる。このことは、Yb4As3系における電荷秩序相転移メカニズムを理解する上で重要な情報といえる。(3)RVO3において外場である圧力により軌道状態の応答を研究したところ、軌道の基底状態が加圧に伴い変化する様子を捉えるとともに、RイオンとVイオンの共有結合性がこの軌道状態に大きく影響していることを明らかにした。
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