研究概要 |
最終氷期から現在にかけての黒潮流路や勢力の変動を復元するために,各種の実験を行い,以下の知見を得た. 1.コアの年代モデル構築 2004年度に九州-パラオ海嶺にて採取した海洋コアの堆積年代を推定するために,有孔虫化石の酸素・炭素同位体比測定,および,火山ガラスの屈折率測定を行った.研究費にて雇用している技術補佐員の協力により,1年間で2000試料を超える同位体比測定を実施した.その結果,九州東方沖のKPR1PCコアの最下部は約3万年前まで達しており,平均堆積速度は約20cm/千年と見積もられる.また,北緯28度のKPR3PCでは,約10万年周期の氷期・間氷期サイクルが2つ分認定され,過去約20万年間の古海洋変動の復元が可能である. 2.九州-パラオ海嶺コアの地球化学的分析 四国沖MD012422コア堆積物中の炭酸カルシウム濃度は,数%〜27%の間で変化しており,一般的に間氷期に高く,氷期に低い傾向を示した.また,その濃度変動は堆積物の明度の変化と同調していた.一方,九州-パラオ海嶺域のKPR3PCの炭酸カルシウム濃度は約40%前後であり,いくつかの年代で極小ピークを示した.それらの濃度低下は,火山灰による希釈層準を除くと,間氷期(亜間氷期)から氷期(亜氷期)への遷移期に相当する.従って,北西太平洋の水深3000m付近における炭酸塩溶解の程度は,気候寒冷化期に最も強くなっていた可能性がある. 3.最終氷期以降の黒潮流域の古海洋変動 浮遊性有孔虫の酸素同位体比およびアルケノン古水温に基づくと,四国沖では最終氷期末期の17,000年前に急激に温暖化が始まり,その後3回の温暖化が繰り返し生じていた.また,17,000-15,000年前は酸素同位体比が有意に重くなることから,海洋表層における塩分増加イベント(例えば,アジアモンスーンの弱化など)が生じていたと推測される.
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