研究概要 |
最終氷期から現在にかけての黒潮流路や勢力の変動を三次元的に復元するために,白鳳丸KHO6-3次航海にて奄美海台および四国海盆から新たにコアを採取し,非破壊基礎解析を実施した.また,既存のコア試料について各種の分析を行い,以下の知見を得た. 1.四国沖では,主に表層混合層に生息するGlobigerinoides ruberのδ^<18>O変動が,生息水深が深く水温躍層下部付近を中心に生息しているGroborotalia infratoの変動よりも明らかに振幅が大きい.G.ruberのδ^<18>O変動は,ベーリング-アレレード(B-A)温暖期とヤンガードライアス(YD)寒冷期に対応する変化を明瞭に示しているが,亜表層種はそれらに対応していない.また,表層種と亜表層種との間のδ^<18>O偏差は水温躍層深度の上下移動を復元するための指標となるが,そのΔδ^<18>Oは温暖期に大きく寒冷期に小さい.特に,B-Aと完新世前期にはΔδ^<18>Oが大きく最終氷期最寒期(LGM)やYD期にはΔδ^<18>Oが小さい.また,2〜3.3cal.kyrに一時的にΔδ^<18>Oが減少する.これらの結果は,LGMやYD期には水温躍層が浅海化していた,つまり,黒潮勢力が弱化していたと解釈される.また,四国沖では表層混合層と中層の温暖化のタイミングが異なり,表層が先行して温暖化している.中層も含めて三次元的に現在の黒潮システムが成立したのは約5千年前である. 2.九州南方〜四国沖におけるアルケノン古水温は,現在よりもLGMに約3〜4℃低下しており,約17cal.kyrに急激に温暖化する.しかしながら,LGMの表層水温分布は現在とほぼ同様であり,日本列島南方海域では一様に3〜4℃寒冷化していた.このような水温マッピングに基づくと,黒潮流路は最終氷期でもほぼ現在と同様の流路であった可能性が高い.しかし,水温低下幅を考慮すると黒潮の勢力は弱化していたため水温減率は大きくなっていたと考えられる.
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