西赤道太平洋海域の古海洋情報を得るために、フィリピン群島海域からのサンプリングを行った。特に初年度となる今年は、現地調査による情報収集と主に北西海岸における隆起サンゴ礁サンゴの採取に重点を置いた。サンゴはエンジンドリルによるコア採取と、年代測定用の表層採取を行った。採取されたサンプルは、東京大学に設置した実験室において分析を行った。実験室は、設備の整備に使える大学からのサポートがないため、本研究の一部を使って、このプロジェクトを遂行するために必要な排気装置の設置や真空装置の組み立て、純粋製造装置の設置などを行った。本研究課題では現在と過去の特定の時期の海洋環境変動の復元という点で、正確な年代決定は重要である。現在のところ、東京大学に設置した実験室において、放射性炭素年代測定用のサンプルの化学処理を行うようにし、一部のサンプルについては、東京大学の加速器質量分析計を用いて年代を測定した。それによると、ルソン島北部において採取された現海水準から2m以下のサンプルについては、2000-8000年の間に分布するサンゴである事が明らかになった。つまりこのサンゴのコア試料の酸素同位体比測定を分析する事によって、完新世の中期から前期の表層海水温および表層海水塩分を明らかにする事ができることが分かった。酸素同位体比測定に供するサンプルは、軟X線撮影を行って年輪の成長方向を確認し、測線を設定してマイクロサンプリングを行っている。フィリピンのサンゴは成長速度が年間1cm以上と十分大きい成長速度を持っている事が分かった。一部のサンプルは同位体比の測定を開始した。
|